財政破綻;プライマリーバランスとGDP成長率、利子率の関係

財政破綻;プライマリーバランスとGDP成長率、利子率の関係

2011/2/21

財政の持続可能性が重要な政策テーマとなっている。

2009年1月の経済財政諮問会議において内閣府から「経済財政の中長期方針と10年展望」の中で、試算として中央・地方政府のプライマリー・バランスの対名目GDP比の見通しが公表されている。

国と地方の財政収支バランスの見通し:2009年以降の名目GDP比の試算
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その後の経済情勢と財政支出の拡大によって、この時よりも状況は悪くなっている。

財政の持続可能性についての見解は、識者によって異なるが、社会保障費などの財政支出の予想通りの増加に加えて、いくつかの追加支出が実施される一方、期待の財政収入は回復せずに収支バランスは悪化した。

当面は景気回復によって、財政収入の回復が期待されているが、問題は長期に財政破綻を回避できるか否かであろう。先送りができない状況と考えられるので、ここで財政の持続性にかかわる見解を整理しておきたい。

1.素朴な財政持続性の理論:ドーマー条件

財政の持続可能性については,Domar (1944)がきわめて素朴な以下の理論を提出した。

D1− D0=ΔD=G − T+rD0 ・・・・・1式

 ΔD:公債残高の増加=新規公債発行額、D1: 期末公債残高、D0;期初公債残高

 G: 公債利払いを除く政府支出、T;政府歳入

 r:公債利子率(平均期中利回り)

G −T はプライマリー・バランスの赤字の年間増,rD0は期中の公債利払い額である。

国債残高を減少させるには、基礎的財政収支(プライマリーバランス)を均衡させる以上に、利払い費を上回る収入があることが必要です(プライマリーバランスが均衡しただけでは利払い費がある分だけ国債発行残高は増えます)。

 ここで,公債残高DのGDP比はZ=D/Yを単純に全微分すると,期中の公債残高の増加ΔZについて、以下の式を得る。

ΔZ=Δ(D/Y)=(∂Z/∂D)ΔD+(∂Z/∂Y)ΔY  =(1/Y)ΔDー(D/Y^2)ΔY  =ΔD/YーD/Y(ΔY/Y)

ここで、GDPの名目成長率を g=ΔY/Yと置き、D=D0として、1式を代入すれば

ΔZ=Δ(D/Y)=ΔD/YーgD0/Y=(G − T+rD0)/YーgD0/Y

ゆえに

ΔZ=Δ(D/Y)=(G-T)/Y +(r-g)D0/Y ・・・2式

となる。

期中の公債残高の対GDP比の増加ΔZは、「プライマリーバランスの赤字のGDP比」と「利子率と成長率の差に期初の公債残高のGDP比を掛けた値」に比例することになる。

言い換えれば、プライマリーバランスの赤字分だけでなく、公債利子率よりもGDP成長率が低ければその差だけさらに悪化することになる。

逆に、GDP成長率が利子率よりも大きければ、プライマリーバランスは改善できることになる。

公債残高のGDP比が増加しない条件(ΔZ<0)は、以下の通りである。

(g-r)D0/Y > (G-T)/Y  ・・・3式

経済成長率が利子率よりも大きくその差に公債残高のGDP比を掛けた値が、GDP比でみた財政赤字よりも大きければ財政収支バランスの赤字が増えることはない。

これが、経済成長と財政収支バランス、利子率の関係式である。(ドーマー条件と呼ばれる)

そして財政の持続可能性に関するもっとも初歩的な理論である。

2.過去の実績データに基づくドーマー条件の図示

ドーマー条件って何?という記事で、上記の関係が図示されています。名目金利 に10年国債の金利、債務残高に国債残高を用いていますが、綺麗に説明できています。
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近年は、短期国庫証券の発行残高が増えているので、短期の公債の金利を使い、債務残高には、国+地方+国庫短期証券を併せた公的債務全体を用いれば、より現実的でしょう。

3.成長率・利子率論争

左辺に着目したのが成長率・利子率論争であり,これは定義上,動学的効率性の問題と同値である。すなわち,利子率が成長率を上回る時,均衡はパレートの意味で効率的であり,動学的効率性 (dynamic efficiency) を満たしていると言われる。

ここで、一休み。後日再開。

— posted by TokyoBlog at 07:28 pm commentComment [8]

1. 国際公約 — 2011/03/09@10:46:04
欧米は財政赤字の半減、日本はプライマリー・バランス赤字の半減
1.「財政赤字の半減」は、「利払費」を含むので、(プライマリー・バランス赤字の半減と比べて)より厳しい。

「利払費」と「利子収入」との差額が、プライマリー・バランス赤字の上に重なるので、大幅な削減幅を必要とする

2. 国際公約 — 2011/03/09@10:50:26
トロントG20金融サミットで国際社会に“公約”した、財政健全化の目標をどう実現するか。平成32年度には国・地方の基礎的財政収支(プライマリー・バランス)を黒字化させるという。

国債の大量発行に伴って2011年度の国・地方の長期債務残高は891兆円程度と900兆円に迫る。対国内総生産(GDP)比では184%に上昇する見通し。

公債依存度は10年度とほぼ同水準の47.9%。国の基礎的財政収支(プライマリーバランス)は22.7兆円の赤字で、10年度補正後の24.1兆円の赤字からわずかに赤字幅は縮小した。
3. 日米金利差と円高 — 2011/03/09@11:07:10
1988年~1995年(7年):
 金利差拡大は、円高。 縮小は、円安。
1996年~1998年(2年):
 金利差拡大は、円安。 縮小は、円高。
1999年~2000年(1年)
 金利差拡大は、円高。 縮小は、円安。
2001年以降(7年):
 金利差拡大は、円安。 縮小は、円高。

4. 平成22年のPB Website — 2011/03/21@19:07:02
平成22年度の場合、
歳入:「92兆2992億円-新規国債発行44兆3030億円=47兆9962億円」
歳出:「92兆2992億円-国債費20兆6491億円=71兆6501億円」
の比較により、
「47兆9962億円-71兆6501億円=▲23兆6539億円
となります。

5. 東日本大地震と財政・金融政策 Website — 2011/03/21@19:10:08
被害額が問題
阪神淡路大地震は、建物・構造物の倒壊などの直接被害額は11兆円程度であった。
今回の総被害額は、およそ10兆円とも言われている。死者・行方不明数は1万5千人を超えており、農業被害も見込まれるので20兆円にもなる可能性がある。

阪神の復興に要した公的資金は5年間で9兆円と見積もられている。9兆円のうち5兆円が民間への移転として支払われている。今回の復興に要する公的資金を、阪神淡路の1.5倍とすれば、今後5年間に13から14兆円必要になる。

リーマンショック後の過大な財政支出に引きつづいて、この資金を公債等でまかなうとすれば、金利の上昇による利払い費の増加も見込まれるので、極めて困難な財政政策となろう。また巨額な公債発行下での金融性政策も難しい舵取りが要求されよう。

すでに日銀は、震災後に30兆円以上の資金供給を行っている。
Up6. 名目成長率>長期金利 の事例 Website — 2011/06/08@08:09:00
主要先進国(先進10カ国及びドイツ、フランス、イタリア)において、1961年以降の名目GDP成長率と長期金利の関係を比較すると、実質成長率が高くなるほど、政府債務残高の抑制にとって好ましい「名目成長率>長期金利」が成立する事例(年数)は増大する。例えば、実質成長率が 2%以下のケースでは成立事例が18%に過ぎないが、実質成長率が5%超のケースでは91%がこれに該当する。

だが、注目すべきことは1970年代以前と1980年代以降とでは明らかに特徴が異なることである。1961-1980年における成立事例は、実質成長率が5%超のケースで99%、実質成長率が2%以下のケースでも53%に達するが、1981年以降では実質成長率が2%以下のケースでは僅か6%、実質成長率が5%超のケースでも63%しか該当しない。より細分化しても、1980年代以降は「名目成長率>長期金利」となる比率がほぼ一様に低下している。

7. 2006年の成長率・金利論争 Website — 2011/06/08@08:10:32
「上げ潮」の名前は、1990年代にアメリカのエコノミストが出版した『The Rising Tide(上げ潮)』に由来するが、小泉内閣時に自民党政調会長であった中川秀直が、2006年10月に『上げ潮の時代』を出版し(当時は安倍内閣の幹事長)、世間に広まった。歴史的には「上げ潮派」の源は、ケインズ主義が国家財政を肥大化させ市場の活性力を奪ったことに対し、イギリスのサッチャー政権(1979~90年)やアメリカのレーガン政権(81~88年)が新自由主義で市場を活性化させる政策(サッチャリズム、レーガノミックス)を採用したことに始まる。

財務省にとって利払い費の増大は心配の種で、一年前の2006年は、谷垣禎一前財務相や与謝野馨前経済財政担当相が金利上昇で利払いが増え、財政が厳しくなることを訴え、「将来の増税の必要性」も指摘し、これに強く反発したのが当時政調会長だった中川秀直自民党幹事長や竹中平蔵前総務相で、「日銀が金融緩和を続ければ成長率より金利を低くできる」などとして、「利払い費増加↓増税」の思惑をけん制した経緯がある。今は谷垣・与謝野両氏も閣外に去り、現政権は中川幹事長を筆頭に成長重視が鮮明で、参院選を前に増税論の広がりに神経質になっているからで、1年前の「成長率・金利論争」は影をひそめている。
8. 増税派、構造改革派、バラマキ派 Website — 2011/06/08@08:20:26
08年9月の自民党総裁選では、経済政策をめぐって、「財政再建派(増税派)」「上げ潮派(構造改革派)」「積極財政派(バラマキ派)」の三つに分かれた。小池百合子と石原伸晃が、「上げ潮派」の立場から出馬し、小泉元首相も小池支持を表明したが、財政出動を主張する麻生太郎に敗れ、同派の退潮も取りざたされた

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