今年は、世界でオンライン型の電子書籍が始まった2010年電子書籍元年として、歴史に記されるのではなかろうか。
日本では、講談社、小学館、新潮社など国内の出版社21社が、一般社団法人「日本電子書籍出版社協会」を2月に発足させた。米国の電子書籍最大手アマゾンから、話題の読書端末「キンドル」日本語版が発売されることを想定した動きでした。この動きから日本の電子書籍元年を言う人が多いが、本当の影響力は、世界のオンライン市場の争奪戦のようです。
市場は急成長している。アマゾンJapanは、2007年12月期に、紀伊国屋なみの年間1000億円以上の売上と予想される。全世界でのアマゾンの売上高は、2000年12月期に27億6200万ドルだった同社の売上高は2004年12月期には69億2100万ドルとなり、着実に右肩上がりの成長を続けている。
電子書籍リーダーとして現時点で、一人勝ち状態のAmazonのKindleに対抗して、AppleがiPadを発売し、iBookStoreからE-Book販売をしているが、E-Book販売額の12から15%に達しているという。6月には25%に跳ね上がるとの予想もある。(2010.5)
残念ながら、日本では、iBookstoreなしの片肺飛行でスタートです。
また、Googleでは、これまでにスキャンした1200万冊余りの書籍の一部を「Google Editions」というWebストアでオンライン販売する予定である。
何故、電子書籍の元年かといえば、
1. Amazon、Apple、Googleの3大企業の競争が始まったこと。
2.英語圏でのデーターベース化されたダウンロード型のオンライン電子書籍が世界をリードする体制が始動したこと。
である。後者は、あまり報道されていないが、2008年に和解したグーグルブックの著作権問題に端を発する。著作権が有効な書籍および挿入物をグーグルが著作権保持者の許可を得ずスキャンしたため、著者、出版社およびその他の著作権保持者(「版権保持者」という)の著作権が侵害されたとして、複数の著者と出版社が集団訴訟を提起し、その後、和解が成立。
和解の結果は以下の通り。
1.Googleによる書籍のデジタル化、商業利用を可能とし、著作権者に対しては、デジタル化書籍1作品につき補償金60ドル以上(総額4500万ドル以上)、収益(アクセス権料 、広告費)の63%を支払う。(2009年1月5日以前に出版の書籍が対象)
2.和解が正式に成立すれば、著作権者が拒否する旨を示さない限り、絶版と本和解の規定により見なされた書籍が全文公開されることとなる。
日本はベルヌ条約という著作権を相互に保護する国際条約に加盟しているため、アメリカで保護が決まった著作権はそれが自動的に日本にも適用されるという。
3.日本や仏、独などからの異議申し立てを受け、和解案の対象を「米国著作権局に登録済みの書籍、または米、英、オーストラリア、カナダの4か国で出版された書籍」に限定し、それ以外の書籍の著作権者を除外した。
現在では、英語圏(米、英、オーストラリアなど)で、データーベース化が一挙に進む方向のようです。
グーグルが展開している電子書籍の販売促進活動に参加を決めた著者や出版社の数は、2万5千を突破した。参加を決めた出版社などが扱う書籍数は200万点に達する。米国の書籍は今後、ほぼ例外なく電子化の対象となる。印刷本からデジタル本へのシフトが急速に進むことになる。著作権が切れた書籍も含めると取り扱う書籍数は400万点に上る。(共同通信2010.5)
書籍内の全文を対象に 検索を行なうことができ、検索結果として表示された書籍の内容の一部(著作権切れの書籍であれば全ページ)が無料で表示される。 著作権の保護期間が満了した書籍は、全文が公開されているので、電子図書館として機能する。
著作権保護期間が存続している書籍は、Google Booksにて、書籍の一部が プレビュー表示され、同時に書籍販売サイトへのリンクが表示される。広告・販売(ダウンロード)サイトとして機能する。
電子書籍リーダーの市場では、PC,Kindle,iPAD,携帯ブラウザ、電子書籍専用端末などいろいろある。そして、ソニーやサムソンも参入している。
各社の違い
Googleは、Google社はChrome OSとAndroid OSの両方を、近い時期に市場投入する。一言で言えば、①OS、端末のコモディティ化、②パソコン以外のモバイル端末市場でのクラウドビジネスの展開、③検索・クラウドの延長上の電子コンテンツ(図書を含む)館ビジネスの3つをねらっているように見えます。
一方、Appleは、携帯、PCの隙間市場をiPadなどで攻略し、音楽、書籍、映像・ゲーム市場を端末+アプリ+D/Bサービスで囲い込みと差別化を図ろうとしているのかも知れません。
Amazonは、書籍からはじまり、電子機器やベビー用品まで、グローバルなネット販売・商品流通に拡大しようとしている。
電子書籍の技術
1.電子書籍用プロセッサー:Freescale社のチップは、米Amazon.com社の『Kindle』からソニーの『Reader』まで、現行の電子書籍リーダーの大半に採用されている。
2.電子書籍フォーマット :電子書籍のためのオープン標準規格であり、基本的には内部にXHTMLを使用している。 すでにGoogleは「Google Books」でパブリックドメイン書籍約100万冊をePubでタウンロードできるようにしている。Appleも米Sonyも「ePub」を採用。AmazonがKindleで採用しているのは AZWフォーマット。別にpdfのビューアーも高速化して、iPadなどでは、サクサクと大きいファイルを読める。
3.電子インク:「長く読んでいて目が疲れない」「文字の大きさが選べて見やすい」などユーザーにやさしい技術。現在、数百万人がKindleを所有し、多くの本を読んでいる。iPadは液晶。
4.クラウド型電子図書館と電子書籍ビューアー
急速に低価格化とコンテンツの蓄積が進めば、学校などにも普及するかもしれない。
ビジネスモデルが変わる
本は、ギリシャ、ローマ時代からのもので廃れることはないでしょうが、日本の売上高は、本、雑誌、新聞とも、ここ10年間減少を続け、出版不況といわれている。その原因は、少子化、活字離れなどいろいろ言われているが、インターネットで面白い記事が見れることも大きい。
印象的なのは、Wikipediaの登場などによって百科事典が廃れ、電子辞書に変わったことである。同じような影響が表れつつある。
1.個人や零細出版社でも、デジタル書籍の世界に参加することができる。
2.日本では、本は販売部数にもよるが、1冊の本が売れると、取次のマージンが8%、書店のマージンは22~23%、残り70%出版社が受け取り、そこから約8~10%が著者に支払われる。一方、Kindleは出版者のロイヤリティを70%、iBookstoreも出版社:販売側が70:30のエージェンシーモデルを採っている。Googleも著作権者に収益(アクセス権料 、広告費)の63%を支払う。
3.電子書籍の世界では、活版を組み印刷し店頭展示販売の部分がネット上にて可能になる。また返本の割合が35%から40%にのぼるのも驚きである。著者の分け前が、現在の10%から、50から60%に急増するかもしれない。出版アプリの提供企業が、どの程度の費用を要求するかが不明であるが、ipodでは20%程度の事例もある(著者は50%)。
4.著作者が電子出版を選ぶ可能性は大きくなるでしょう。それ以上に、自費出版など多くの著者が参加して、多様なコンテンツが現れる動きは始まっている。
5.新聞や雑誌、マンガなどをデジタル書籍として再度販売する動きもあり、すでにすでに30以上の雑誌や新聞をiPad、PCなどで閲覧可能。
予想される将来
オンライン電子書籍は、将来の出版業界につぎのインパクトを与えるか?。
1.ネット市場で本の価格、コンテンツの価格が決まってくる。(例えば、コンテンツ無料の広告収入モデル)
2.読者および著作者の従来型出版からの離脱。(ビジネスモデルに起因)
3.出版・新聞・雑誌不況を加速し、コンテンツのレベルダウンが従来の業界に発生する。企画・編集の力が問われる。
4.再販売価格維持制度(定価販売制)と委託販売制度(返品制)をめぐって、利害・得失の議論が高まる。取次と大手出版社の新時代への適応能力が問われる。
5.コンテンツの多様化が急速に進む。 個人電子出版の急増。
従来の本などでは、出版社が著作権の当事者の窓口となるケースが多いので、出版社との契約が重要になる。
6.オンラインコミュニティの成長。(例:携帯小説ファンは自分たちを作家の仲間とみなしているがそれは妥当なことであり、友達のように作家とその作品をフォローする。)
7.技術的には電子書籍端末に求められる「長く読んでいて目が疲れない」「文字の大きさが選べて見やすい」などユーザーにやさしい技術が求められる。従来の液晶や電子インクの改善など技術課題は多い。またクラウド型の電子図書館+書籍ビューワーといったビジネスモデルも多数発生するであろう。
日本の電子書籍が、グローバル標準に沿って、PDFやXHTMLを使用する標準フォーマットの下で、安価になるであろうWEB上のデーターベースと電子インクや液晶を使った書籍ビューアーの世界で発展していくことを願っている。それが、読者の読書機会と著者の著作意欲を高め、生産性の向上に貢献すると思うのです。
心配するのは、ガラパゴスと揶揄される携帯市場の電波帯域の違いやSIMロックのような販売・供給側の都合が優先されると、取次や出版社の権益を守りすぎて、日本の電子書籍が特有の供給形態になる危惧があるためです。
最近の動向
2009.8 Googleが百万タイトルのGoogle Booksを公開(ePub形式)
2009.10.7 電子ブックリーダー「Kindle」を、日本を含む世界100カ国以上で販売すると発表
2010.3.24 日本電子書籍出版社協会を設立
2010.4.3「iPad」を米国内で発売。 iBookStoreでePubフォーマットが採用される。
iPad向け有料アプリで最も人気を博しているのは、Appleによるプレゼンテーションソフトの「Keynote」、文書作成用の「Pages」、表計算ソフトの「Numbers」。
2010.4.2 Amazon.comは2日、「Kindle App for iPad」を無料公開。
Kindle Storeで発売されている45万以上の書籍を、iPad発売初日から利用できる。日本では、現在は書籍しか購入できず、雑誌、新聞、ブログの購読はできないという制約がある。
2010.4.2 Googleも2日、同社のWebアプリケーションをiPadに対応させた。(Gmail for Mobile)
2010.5.27 ソニー、KDDI、朝日新聞社などが電子書籍配信新会社。年内スタート。ソニーはReaderをKDDIも端末発売。
2010.5.28 日本電子書籍出版社協会が電子書籍1万点、iPad向けに販売
電書協が直営する電子書店「電子文庫パブリ」でパソコンや携帯電話向けに売っている電子書籍。最多価格帯は500~600円で、iPadでも同額
2010.6.28 GoogleドキュメントビューアがAndroidとiPhone/iPadに対応。
「Googleドキュメントビューア」のモバイル版を公開した。AndroidとiPhone/iPadに対応し、PDFファイルやWord/PowerPointファイルをウェブブラウザー上で閲覧できる
2010.6.28 iPad用電子書籍の投稿サイト「iPadZine」
電子書籍ファイルは、PDF形式、EPUB形式のほか、アプリ「i文庫HD」用のテキスト形式、画像ファイルなどに対応する。 今後は、Paypalによる書籍のダウンロード販売にも対応する予定。
2010.7.1 最新版「Amazon Kindle DX」発表、379ドルに値下げ、コントラスト50%向上 。「Amazon Kindle」は189ドル
参考:pukiwikiの電子書籍の解説記事
Amazonで購入した電子書籍は、KindleはもちろんiPhoneでも読める。AmazonがiPad向けに電子書籍ストアのアプリ「Kindle App for iPad」を開発中。
ということで、Amazonのビジネスモデルは極めオープンです。GoogleのモバイルOSであるAndroidを搭載する機器でも読めるようになるだろうし、windowsでも読めるようになると期待している。
一方、Amazonの電子書籍を読むためのアプリが各種デバイス上に開発されることは、Kindleの電子書籍の形式とePub形式の両方がいきのこることかもしれない。
Appleの電子書籍リーダーアプリであるiBooksは、AndroidケータイやWindowsケータイ向けに提供される可能性は低いのではなかろうか。その理由は、Appleの端末で利益をあげるためには、公開しない方が選択されやすいから。
AppleのiBooks Storeで購入した電子書籍がどの機器でも読めるとはかぎらない。
GoogleドキュメントビューアがAndroidとiPhone/iPadに対応。Googleも、同社のWebアプリケーションをiPadに対応させている。
公開性の高いBookストアが生き残る。
ePub形式のzipファイルはオープンソースを使ってだれれも作成可能。ということは、だれでもWEB上にipadなどで読める電子出版が可能ということになる。
電子出版社がぞくぞく登場してもおかしくない。問題はコンテンツの提供や公開の動きにある。販売力のあるeBookストアが生き残る。
2010年5月28日に米アップルのタブレット端末「アイパッド」を発売したソフトバンク。30以上の新聞、雑誌を定額料金で読めるコンテンツ配信サービス「ビューン」開始。
毎日新聞、週刊朝日、AERA、週刊ダイヤモンド、CanCam……合計31の新聞・雑誌を発売日から閲覧でき、価格はアイパッド用で月額450円(アイフォーン用は350円、3G携帯用は315円)。
「特集記事でさえ、全部読むことができない。5分の2しか読めないのだ。あとは書評とかだけ。完全に紙への誘導目的のチラ見せである。」など評判がよろしくない。アクセスが多すぎて、ダウンロードも大変のようです。
「i文庫HD」は、KindleやiBookesに顔負けのインタフェースで電子書籍を読めるiPad用アプリ。電子書籍の販売サービスは目処が立ってないので、読めるのは青空文庫にある作品もしくは自前でPDF化した書籍/雑誌に限られる。i文庫HDは有料で価格は600円となっている。
価格、サイズ、電池寿命でKindleが優位か?E-Readerとしての比較ではKindleのメリットは大。数週間もつというKindleの電池寿命は、持ち運びが前提のE-Readerとしては最重要。また259ドルのKindleには無制限の3G接続が付いているのに対して、iPad3G版はWi-Fi版より129ドル高く、月14.99ドルの接続料も追加的に必要になる。Kindle Storeの2年先行の利はかなり大きく、本の数で45万対6万は、愛書家にとっては決定的。もっとも iPadで Kindle StoreやBarnes & Nobleが提供を開始すればその面の不利は消失するが・・。
E-ReaderはiPadの数々の機能の一つに過ぎない
日本ではコンテンツが少ない。英語の文献を読みましょう。
ネットにつなぐための通信費用は、購入する書籍や雑誌のコストに織り込み済み。米国内でKindle 2を購入して成田空港に到着したアメリカ人も、日本に住んでいてKindle 2の国際版を米Amazonから買った日本人も、日本国内では、AT&Tとローミング契約しているNTTドコモの3G回線を基本的には無償で使えることになる。
日本語ハック済みのKindleさえあれば、青空文庫からダウンロードして読むことが出来る。
ソニーは電子書籍リーダー市場で2012年度に世界シェア40%を目指す方針を明らかにした(2009年末発表)
「Reader Daily Edition」(399ドル)はKindleと同様に3Gワイヤレス通信に対応し、電子書籍や新聞をダイレクトにダウンロードできる。
日本国内では専用端末が振るわない。ソニーは2004年に端末「LIBRIe」(リブリエ)を発売したが、07年に撤退した。その理由は、1.出版社が電子化コンテンツに理解がなかった。2.携帯電話を使って文字や画像を見る文化が強い。
世界の経験を日本で生かして欲しいと思います。日本のコンテンツ市場の開放性を高めないと…。
2010年12月7日
米インターネット検索最大手グーグルは六日、米国で電子書籍を販売するサイト「グーグル・イーブックストア」を開設し、同書籍の取り扱いを始めた。販売対象の作品数は三百万点を超え、世界最大規模。パソコンや高機能携帯電話(スマートフォン)の機種を問わず、読める。
欧州は来年三月までに、日本では来年中に販売を開始する見通し。電子化された膨大な数の書籍を持つグーグルの参入で、電子書籍の普及が加速しそうだ。
電子書籍は米アマゾン・コムなどの専用端末で人気が出て、販売金額が前年から三倍のペースで伸びている。グーグルはこれまで本の内容を検索して、最大20%まで読めるサービスを展開していたが「イーブックストア」で販売にも参入。新刊本やベストセラーなど数十万点は有料で、著作権が切れた古典などは無料。
電子書籍を読むにはウェブ閲覧ソフトを使用する。米アップルの携帯端末やグーグルの基本ソフト(OS)「アンドロイド」を搭載した携帯電話用には専用ソフトを無料で提供する。全米の約四千の出版社が電子書籍を提供。グーグルのサイトから直接買えるだけでなく、独立系の多くの書店が開設しているサイトでも購入できる。
電子書籍市場は急成長産業であるものの、市場規模は2009年時点で出版市場全体のわずか2%強(米国市場では1%強)にすぎない。市場を拡大するためには、海外市場の開拓も意識した、オープンな取り組みが重要だ。EPUBの日本語化で遅れをとっている一方で、アップルや、グーグルは米国のデファクトであるEPUBではなく、今後はウェブの国際標準化団体「W3C」が策定中の次世代規格「HTML5」を採用していく意向を表明している。