経済物理学と金融市場

経済物理学の由来は、ボストン大学のスタンレー教授等が中心となって、経済現象を対象にした統計物理学の研究会が1997年7月にブダペストで開かれ、そこで生物物理学Biophysicsにならって、Econophysicsという名がつけられて始まったと言われている。
 しかし、経済現象を、確率的システムや過去依存型のシステムで表現し、予測や設計に応用する試みは30年以上の歴史がある。
 計算機を生み出したノイマンとともに、モルゲンシュタインは、人の選好行動の合理性を信じて基数効用と主観確率の理論を構築した。また金融分野では期待に基づく人の行動を分析し、確率過程で表現し、投資、消費など金融分野の動学モデルや均衡モデルが数多く提案された。
 有名なのはブラック・ショールズによるオプション価格の理論である。確率微分方程式の伊藤の問題を、特殊化単純化して、将来の条件付請求権の値段を、解析的に示したオプション価格公式は、4ページ程度にその証明が収まる内容ではあるが、オプション市場を構築する上で有用であったので、ノーベル賞に値する貢献のひとつとして認められた。
 また古くより、株価や為替変動は、利回りの変動性がはげしく、正規分布でなくより裾野の広いコーシー分布のような分布であることが知られていた。言い換えればランダム性が高く、いずれ価格が正常に(中央の均衡価格に)もどると思ってもそうはなりそうも無い分布である。さらに、年間の伸び率(利回りなどの)の分布も、1週間の伸び率の分布も、前日対比の伸び率の分布も、すべて相似である。言い換えれば、フラクタル次元の時系列となっている。
 統計物理学では、1/fゆらぎの理論や量子・分子統計の理論が先行的に発達していた。生物学も遺伝子の変異や細胞分裂成長過程の理論も数学的に扱われるようになってきた。ここでもカオスやフラクタルの研究が進められた。
 最近はシミュレーション技術の進歩により、画一的な個人ではなく、多様な行動原理で動く社会の現象が、カオティックになる(例えば株価崩壊)ことが知られてきた。

サンタフェ研究所の複雑系解析のためのエージェントシミュレーター
   swarm ——>  ココ
法則性は美しい。美しいと感じるものには、法則性がある。
“The scientist does not study nature because it is useful to do so. He studies it because he takes pleasure in it, and he takes pleasure in it because it is beautiful. If nature were not beautiful it would not be worth knowing, and life would not be worth living. I am not speaking, of course, of the beauty which strikes the senses, of the beauty of qualities and appearances. I am far from despising this, but it has nothing to do with science. What I mean is that more intimate beauty which comes from the harmonious order of its parts, and which a pure intelligence can grasp.” ——Poincar