先日、友人が読売新聞の「編集手帳」の記事について、疑問があると言った。2009年5月21日付 編集手帳 である。
記事の、内容は、戦時中に「夢の製鉄法」騒動があり、「発明家が畑のなかに砂鉄を盛り、アルミの粉を加えて火をつけると、純鉄が出来た。畑で製錬できれば高価な溶鉱炉は要らない。砂鉄は幾らでもある。これで戦争に勝てる…と軍部は色めき立った。」という記事である。彼の疑問点はアルミは発火点が高いので、砂鉄とアルミ粉で燃焼するはずは無いので、間違いでしょうという点と、純鉄ではなく粗鋼の間違いでしょうという2点である。友人は、マグネシウムならば、容易に燃焼すると納得できるそうです。
確かに、簡単に発火しそうもないし、純鉄などできそうにない話ですので、調べてみると面白いことが幾つか判った。
まず、編集手帳の記事の全文は、このホームページで参照されている。
中谷宇吉郎博士が 鉄より貴重なアルミを鉄の10倍も消費する話であるので (一台の戦車を作るのに百台の飛行機を潰(つぶ)すような話〉と指摘したようです。
編集手帳は、このような 望める「効果」が支払う「費用」よりも過大な事例であり、今回の「裁判員制度」もこのような間違った制度であるので、裁判員制度が始まる5月21日に「3年後の制度見直しまでに(その妥当性が)明らかになるだろう。」と結論づけている。
裁判員制度の欠点を中谷博士の比喩(ひゆ)を思い出して書いたようですが、この随筆はいかにも竜頭蛇尾の感がするし、前段に対して後段の結論に飛躍があるので、あまり良い感じがしない。
ご存知のように、中谷宇吉郎博士は、雪の研究で有名な物理学者であり、彼の師匠の寺田寅彦先生とともに、名随筆家です。「中谷宇吉郎随筆集」(樋口敬二編、岩波文庫)に「千里眼その他」という随筆があり、その附記に、この製鉄法のことが、書かれているようです。生憎、持参していないので、原文を見たいものです。中谷宇吉郎先生は、怪しげな「日本式製鉄法」が軍部に売り込まれた、と中谷宇吉郎は書いているそうです。先生は、この随筆で、とんでもない似非発明家を批判し間違った話を咎めることで、正しい方向を示したかったのでしょう。
わたしが、調べて面白かったのは、つぎの2点です。
1.WEB上にこの記事が急増していること。
編集手帳の記事は、あちこちに記載されている。
・鉄 – Wikipediaに、転載されている。
http://ja.wikipedia.org/wiki/鉄
「純鉄」は間違いであると注記が必要でしょう。辞書としては間違いを晒すことになりそうですし、テルミット法について海外で発見されていたので、日本の発明でもないと注記したほうが良いでしょう。
・波的博客に编辑手帐 21日 审判员制度的‘效果’与‘费用’として紹介されている。
ネットの情報流通スピードは、速いですね。間違いもすぐに流通します。
2.2009-4-13の企業OBペンクラブの記事
情緒的技術の話に、中谷宇吉郎が親戚筋という方の記事に、下記のようにある。
「中谷の小さい頃、国内で千里眼という超能力に世の中が浮立ったという随筆の付記に昭和の事件として記されているが、1943年に純日本式の製鉄法が発明されたことが結構話題になり、最後は政治的に利用されたと書かれている。」
これに続き「この製鉄法は砂鉄を畑の中に盛り上げ、アルミニュームを混ぜ・・・」の文章が、載せられており、編集手帳の記事と似ていて、より詳しい。1943年の純日本式(実は嘘)の製鉄法の発明の話であったらしい。
科学的に確かなところは、下記のように思います。
1.アルミ粉と砂鉄のみでは、「簡単には発火しない」し、「純鉄」は得られない。
発火させるためには、火薬あるいは木炭などの熱源と空気の送入が必要でしょう。過酸化バリウムを混ぜて点火剤とする方法があるようです。
アルミ合金が燃えるか?というホームページに、鉄とアルミの発火温度が示されています。アルミ粉 550~640°C 鉄粉 315~320°C で アルミは鉄よりも、発火しにくいようです。
アルミ粉が一度燃焼すれば、酸素を奪うので、砂鉄などの酸化鉄を還元して、鉄隗を作れる。しかし、純鉄かどうかは、砂鉄の成分しだいであるが、純度は高いでしょう。1気圧のもとでの融点と沸点は、鉄 1536度 2863度 アルミニウム 660.37度 2520度です。
2.テルミット法という酸化鉄などをアルミ粉で還元して金属塊を析出させる方法が、海外で発見されていた。多分 似非発明家(詐欺師)はこれを「日本式製鉄法の発明」と称して、軍部に売り込んだのでしょう。簡単に軍部がだまされたか?は興味深いですね。
3.アルミ粉は、粉塵爆発など危険である。
大量のアルミ粉は一度発火すると、危険。
アルミ粉末は危険物第二類に分類されるもので、基本的に酸素をさえぎる(窒息消火)をする必要がある。水とも反応する。火災に対しては一般の消火器や水では消火が困難なので、注意!!!
注意:熱で溶かしたアルミニウムを注ぐ時は爆発に注意しましょう
中谷先生が書かれた、附記にある製鉄法の原文がわかる方は、教えてください。
砂鉄とアルミニウム粉末で製鉄する話:中谷宇吉郎先生の随筆
5 thoughts on “砂鉄とアルミニウム粉末で製鉄する話:中谷宇吉郎先生の随筆”
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こんな実験記録がありました。危険ですね。
http://web.kyoto-inet.or.jp/people/sugicom/kazuo/neta/bake28.html
テルミット法・・ 還元されにくい鉄、コバルト、クロムなどの金属酸化物 を、アルミニウム還元して析出させる方法。 ゴールドシュミット法ともいう。
山間部の鉄道の線路の溶接などに用いられてきた。
製鉄法というより、酸化鉄(砂鉄)を還元して、鉄塊を析出させる方法というのが正確でしょう。
テルミット(thermit)とは酸化鉄とアルミニウム粉の等量混合物で,鋼などの溶接に使用される.
ゴルトシュミット GOLDSCHMIDT,Hans 1861.1/18~1923.5/21の方法を、発明と称して軍部に売り込んだ輩がいたのでしょうか。
ドイツの化学者.Essenの生れ.アルミニウムの酸化反応を利用したテルミット法を発明したが,これはマンガンやクロムなどのヤ金技術として,あるいは鉄道レールの溶接などにきわめて重要な技術となった.
レール用テルミット剤は粒状酸化鉄74と粒状アルミニウム18.5,軟鋼切材7,フェロマンガン2,フェロシリコン0.3,フェロクローム0.35より成り立っている.点火剤は過酸化バリウム(BaO2)とAl(アルミニウム)の混合微粉末が使われる.テルミット反応とは酸素と親和力の強いAlを還元剤とする金属酸化物の冶金反応のことであり,大量の反応熱(3000度)を利用する。
金属酸化物にアルミニウムの粉末を混ぜて点火すると,アルミニウムは酸化物を還元して自身はアルミナとなる.このとき発生する高熱により,遊離された金属はただちに融塊となる.炭素を含まない粗金属を作る目的に利用される。
できる鉄は、純鉄ではない。