10月3日にベルギー財務相が、「欧州にとって人民元とドルの連動性が問題」と発言している。
財務相は「われわれにとっては、ドルの水準自体よりも、人民元とドルの連動性によって受ける影響のほうがはるかに大きい」と指摘。、「中国は世界貿易への参加をますます拡大しており、世界通貨システムの一員としての立場も拡大すべきだ」との見方を示したと、ロイターが報道している。
春以降の世界の為替は、おかしな動きをしている。
・EUROやAUD(オーストラリアドル)は、金融収縮時に戻したものの、一貫して、対ドル(対元)や対円ではどんどん高くなっている。半年あまりで20%ほど円ベースで高くなった。
・一方、ドルと元の為替レートは殆ど固定的である。
円も8月までに122円/ドルまで安くなったが、8月16日の金融収縮で一時上昇したものの現在115円/ドルである。
・言い換えれば、オーストラリアやユーロからみれば、中国からの輸出攻勢を受けやすくなったし、逆に商品を米国や日本には売りにくくなっている。日本からみれば、海外旅行も欧州やオーストラリアは急に割高になってきたということ。
日本の新聞報道は、サブプライム問題ばかり目を向けて、米国の国内資産バブルと世界の信用収縮の心配を言っているが、よく考えて対応すべき問題である。
経済理論に則して、考えてみよう。
為替と経常収支の関係をあらわす「マサチューセッツ・アヴェニュー・モデル」がある。
「2割のドル安を2年続ければ、経常収支のバランスは2割改善する。」 ――マサチューセッツアベニュー・モデル
この理論に従うならば、ドルがユーロやオーストラリアに対して安くなることは、米国の巨額な経常収支赤字(8000億ドル/年)は、対欧州で改善するかもしれない。
ところが、元に対しては、中国がドルでペッグして擬似固定相場政策を実施しているので、全く効果が無い。
米国の貿易赤字の殆どは対中国であり、日本よりも多のであり、元が対ドルで高くならない限り、米国の巨大な赤字は減りそうにないということである。
最近は、欧州と米国が為替政策では、これまでと異なり、元を高くするよう協力して圧力をかけている。為替市場が捻じ曲がっているのを正すべきとの圧力である。
為替は実力に応じて変動させるべきなのに、中国のみが管理的に運用しているためであろう。
中国は、貿易黒字による外貨準備高が急増して、すべに日本を上回っているにもかかわらず、そのほとんどを外貨で再運用することで、為替を安定化(極度に安い元で)させている。
元がどの程度、均衡価格から安いかは、世銀試算がある。
「世界銀行の試算(2001年)は、人民元の実力レートを現実レートの5分の1と大幅の元高になるとしています。(ちなみに、日本円の実力レートは現実レートの1.3倍と大幅な円安としている)。中国は、大幅な経常収支の黒字によって、外貨準備高を急増させながら、それをすべてドルなどの外貨に投資・交換することで元安の維持に努めてきた。(これも日本とは異なる為替政策です)」
日本株の出遅れと為替政策
中国は、外国からの資本進出を受け入れる一方で、安価な中国製品を世界に売って貿易収支を膨らませている。
今年になって20%の通貨高が欧州やオセアニアで発生したが、これらの国は、我慢できなくなったのでしょう。
ここで、予想。
・欧州・豪州の通貨高で、元に対する切り上げ圧力が世界で強まる。
・中国は、元を切り上げたくないので、金利を上げる。
・そうすると世界のバブルの源泉である、米国の経常収支赤字、中国の貿易黒字、石油高による資源国の資金流出はとまらず、国際金融の不安定化、変動はさらに激しくなる。
・香港や台湾から高金利と切り上げ期待から、中国にマネーが移動しやすくなる。
要すれば
・現在の為替市場は効率的でない。裁定取引の余地がある。
・「為替変更が重要であり、金利政策で均衡を変えることはできない」という話です。
・日本から見ると、元とドルが現在よりうんと高金利でないとデフレからの脱却は難しいということ(但し、円が対元で円安になれば景気が回復し、金利もupしてデフレから脱出できそう)
・米国は、海外資産が多いことからドル安になれば、為替差益が出る構造に加え、国内産業の競争力up、経常赤字減少など、ドル安で元気になる方向の復元力が働く。
・日本は近年に対外純資産が200兆円と多いことから、ドル安(円高)は、為替差損が出る。さらに、輸出企業の競争力がdownする一方輸入額はGDPの10%程度と少ないのでデメリットばかりである。経常収支の黒字も減少する。円高・株安からの復元力が弱い。さらに、超低金利なので、金融緩和政策が効かせられないし、財政赤字なので内需拡大策もとりにくい。為替安定化基金やアナウンスメントが重要と思うが、米国に気兼ねしているのか、昔のジャパンバッシングを思い出すのか、肝心の財務省が何もせずに、解説ばかり陳述する傾向にある。
・為替変動の影響を、過小評価してはいけない。
日本は、対外資産だけでなく株価もドル安と連動して、デメリットを発生させる方向に動くので、グローバルな信用収縮は、日本にとって不安定性を高める。一方、米国やドルでペッグされた中国などは、変動に対して安定性が高い。
関連記事:円高と経常収支:マサチューセッツアベニュー・モデル
為替と金利がおかしい! 元の切り上げか、金利上昇か?
12 thoughts on “為替と金利がおかしい! 元の切り上げか、金利上昇か?”
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世界は過剰流動:高まる変動性
1.米国が経常赤字8000億ドルであるので、年間100兆円規模のドルが海外に供給され、非居住者の預金・投資として自動的にリサイクルされる流れがある。
2.中国や産油国・資源国が黒字であり、これが投資先を求めている。中国などは、資金流入に応じてほぼ同額の外貨運用を行うことで、通貨を安定させている。(ドルなどでペッグした状況)
はじめまして。
阿修羅からきました。
>米国の貿易赤字の殆どは対中国であり、日本よりも多のであり、元が対ドルで高くならない限り、米国の巨大な赤字は減りそうにないということである。
中国にしろ日本にしろ対米黒字国がアメリカ国債を買って資金を還流させてるうちは、アメリカは貿易赤字でも痛くも痒くもないんじゃないですか? つうより、基軸通貨であるドルと米国債による国家ぐるみのマルチ商法で、戦争できるほどの資金調達を行ってるのがアメリカじゃないんでしょうか?
アメリカの貿易赤字はいわば確信犯でしょう。中国が対ドルで元を切り上げるために米国債を買わなくなることで、実はアメリカも困ってしまうんじゃないでしょうか。
もう一つ、日本の株が上がらないのは、これまで日本の景気を支えてきたアメリカの需要がサブプライム問題で今後縮小するであろうことと、その分の需要を国内を中心に作っていかなくちゃならないのに、消費税を上げるなんぞと政府が息巻いてりゃ、国内の需要は増えるどころか減ってしまうでしょう。そんな現状じゃ企業の業績に対して投資家は懐疑的になりませんか?
グローバルな市場間の裁定取引の視点から、政治・経済を見ましょう。
1.最近の金の高騰と相関の高いドル安(商品市場と為替市場)
2.米国の住宅市場の不良債権とREITなどの投資市場の低迷(資産の証券化市場の金融収縮==>消費市場の低迷?)
3.信用収縮時の債権高と株安(債権市場と株式市場の相関と裁定)
4.円高・ユーロ高と株価低迷(為替と株式の裁定)
世界中の各種マーケットが過剰流動性と投機資金の増大によって、乱高下するようになってきたようです。
とすれば、米国・日本・ユーロ・中国の金利、債券価格、為替、消費者物価、資産価格(インフレ)などは適正かが問題でしょう。
総合的に金利・為替・インフレ・雇用の政策や財政政策を考えないと確実に間違いが起こります。
貿易問題だけでもダメ、消費税(財政赤字対策)のみ議論もダメではないでしょうか。
日本のデフレ、低金利、円高、財政赤字、雇用不足、証券市場の低迷などは、まとめて方向づけないと、対策にならない時代でしょう。
>グローバルな市場間の裁定取引の視点から、政治・経済を見ましょう。
富の源泉は実体経済が生み出すものです。極論すれば、金融は単なる抽象的な数字の羅列でしかありません。いくら高等な理論を使おうが、前述したように富の源泉は実体経済にあるのです。(釈迦に説法になるかもしれませんが)貴殿のお書きになられてることには、そのことに対する視点がやや抜け落ちてるやに思われます。
為替が資産市場におけるストック均衡できまるならば
為替相場は「実質金利差」、「名目金利変化率格差」、「インフレ率格差」、「累積経常収支」によって決定される
優れて金融的である為替や金利やマネーサプライが、抽象的であるからといって、実体経済とは関係ない動きと見ると間違えます。
金融や信用創造なしに、実体経済の動きが決まるはずもなし。
1円の円高が、国家のBSにどう影響するかがわからないと、アルゼンチンのように金融が実体経済を破綻させることもありますし、この前のアジアの通貨危機のような事態が発生したことも理解できませんでしょう。実態は何も変わらなくても、金融が突然変化し、危機を生み出した事例にはことかかないし、金融の研究成果が実際の取引や政策に生かされている現状も理解できないでしょう。
参考になります
【ソウル 11月14日 ロイター】
韓国財政経済省の趙源東(チョ・ウォンドン)次官補は14日、市場の安定化のために為替市場に介入する意向があると述べ、
ウォンの急騰に対する政府の警戒姿勢をあらためて示した。地元ラジオ番組で述べた。
11月27、28日には欧州金融当局者が中国・北京を訪問する。
現時点ではトリシェECB総裁、ユンケル・ユーログループ議長、
アルムニア欧州委員が中国金融当局と会談予定となっており、
人民元とともにユーロに絡んでの言及があるか注目されそうだ。
「中国人民銀行は27日、中国とユーロ圏が、為替相場の急激な変動を防ぐために協力することで合意したことを明らかにした。」
玉虫色の発表です。意味するところは・・・・
ロイター調査によると、29日発表の第3・四半期の米国内総生産(GDP)伸び率(改定値)は、前期比年率4.8%への上方改定が予想されている。
住宅市場が低迷しているものの、在庫の急増と貿易赤字の縮小が寄与するとの見方とのこと
ドル安による貿易赤字の解消、対外資産からのドル建て所得収入の増加が大きいのではなかろうか
第4・四半期のGDP速報値については、急激な減速を予想しているらしい。