東の群青、西の瑠璃(ラピスラズリ)、天空の青

「空の青、海の青」というが、美しい青色を群青とか瑠璃色と呼ばれる。

東の群青は、海の青であり、西の瑠璃は天空の青である。

讃岐生まれの弘法大師、空海は、その名のように、室戸岬で修行し、空の青と海の青を見て悟りを開いた。瑠璃は空海さんの守護石である。

瑠璃は、エジプトにおいて天空と冥界の神オシリスの聖なる石である。

群青とは

群青は、日本画などの青色顔料で、原石は藍銅鉱(アズライト)である。

空青・金青・紺青・大青・浅青などの表現があるが、江戸時代中期に 「群青」 の字が当てられています。ラピスラズリと同じですか? と良く聞かれますが、別物です。

瑠璃(ラピスラズリ)

ラピスラズリは青金石、瑠璃、ウルトラマリンとも呼ばれ、中近東(産地はアフガニスタンなどの)が有名である。

古代日本には、群青・ラピス共にシルクロード経由で上陸している。ラピスは絵具と云うより、宝石としての扱いだった様で、正倉院の宝物にその姿を見る事が出来ます。
日本では、ラピスラズリは瑠璃と呼ばれ、仏教の七宝(金・銀・瑠璃・玻璃・しゃこ・珊瑚・瑪瑙)のひとつとされ、真言宗の開祖、空海は瑠璃を守護石としていた

神秘的世界を思わせる石、ラピスラズリは古代から現代にいたるまで数多くの伝説を生み、世界各地で人々を魅了してきた。
装飾品にとどまらず、工芸品や宗教的な儀式を行うための道具、鮮やかな青を描くための材料、時には薬や化粧品などにも用いられた。

古代エジプト人はラピスラズリの持つ超自然的な力が病気にも効くと考え、眼病や鬱病、頭痛などの際に粉末にして塗布したり服用したりしたとパピルスに書かれている。

ヨーロッパでは、「ウルトラマリン(海の向こうから来た青)」と呼ばれ、群青色の顔料として珍重されていた。ラピラズリから抽出したこの顔料は他のものでは同じ色を出すことができず、金と等価で取引されるほど高価なものであった。

イスラムのモスクでは、青を神聖視している。聖なる色である。

薬師如来の正式の名前は、「薬師瑠璃光(るりこう)如来」と言います。瑠璃光と付いているのは、遥か東方に薬師如来の主宰する国があり、そこは地面が瑠璃(るり=ラピスラズリ)で出来ていて、浄瑠璃世界と呼ばれてると経文に説かれている。

両者は産出地域の関係もあり、「東の群青」 「西のラピス」 と分かれている。

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群青

群青は「高松塚古墳壁画」(600年末頃)に絵具として使用されている。群青の国内生産は700年前後(法隆寺壁画の頃)には開始され、戦乱や政争による、供給ストップの時代を経て製造が続いて行きます。

綺麗で上質な群青は、今も昔も貴重で高価な物ですから、絵具屋が登場するまでは 「お国の物」。織田信長・豊臣秀吉など、時の権力者による採掘許可や取扱許可が必要でした。絵師達に絵具の製造・使用を許可する事で、安土・桃山の絢爛豪華な文化が花開いたと想像するのは楽しいです。
群青も天然の物ですから、全てが綺麗とは限りません。渋い所から綺麗な所、価格も大分差がありますが、全て原石がアズライトの天然群青です。

現在、岩絵具の国内原石が枯渇し、多くを輸入に頼っており、その分、豊富な色目を手に入れる事が可能となっています。

”絵具を焼く”
熱を加える事で起こる化学反応を利用して、色を変化させていきます。
(自然物なので、焼いてみないとどんな色になるかは分かりません)
また、焼いた絵具・焼いてない絵具を混ぜて、色目を調整して行く事もある。焼群青・焼緑青等の名称がある。自作する事も可能ですが、ガスが発生する。

ラピスラズリ

ラピスラズリのラピス(Lapis)はラテン語で”石”、ラズリ(Lazuli)は”青”や”空”を意味するペルシャ語の”lazward”が語源である。
スペイン語/ポルトガル語で青を意味する”azul”もここから来ており、イベリア半島が8~13世紀半ばまでイスラム世界であった名残。

ラピスラズリの産地はアフガニスタン、シベリア、チリ、アメリカ、コロラド州など非常に限られており、歴史に古くから登場するのはアフガニスタンのバダフシャン産出のものである。

鉱物学的には、ラピスラズリとはラズライト(天藍石)、ソーダライト(方ソーダ石)、アウイン(藍方石)、カルサイト(方解石)、パイライト(黄鉄鉱)など複数の鉱物から成る青い石である。 星のように見える金色の斑点は黄鉄鉱、白いのが方解石である。

方ソーダ石族の鉱物はどれも同じ結晶構造をもっており、アルミニウム(Al)または珪素(Si)を四つの酸素(O)が囲む四面体が、石英や長石と同じように、立体的につながった骨組みをつくっています。 しかし、骨組みの間に比較的大きな空間があって、この空間にいろいろのイオンが入ることができます。 ラピスラズリ(青金石)ではここに、ナトリウム、カルシウム(Ca)と、硫黄(S)、四酸化硫黄、塩素が入っていることで、青色となる。
方ソーダ石族の鉱物はさまざまな色をもっていて、無色あるいは白色のものから、灰、黄、緑、褐、桃、青、藍色まであります。 これらの色の原因について多くの研究が行われ、また、同じ結晶構造をもったウルトラマリン(群青)の合成研究の結果、構造の骨組みの空間に入っているイオンによって色がコントロールされていることか明らかになりました。 ラピスラズリやウルトラマリンの藍色は硫黄によるものです。 硫黄の 代わりにセレンを入れて合成すると血赤色になりごテルルに変えると黄色になります。

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紀元前3000年頃
エジプトの墳墓から、この地では産出されないラピスラズリの装飾品や工芸品が数多く発見されている。

ナイル河畔の町ルクソールの対岸にある王家の谷で発見されたツタンカーメン王(紀元前1350年頃)の黄金マスクにラピスラズリが使われ、当時のままの美しい金と青のコントラストを見ることができる。

ラピスラズリはエジプトにおいて天空と冥界の神オシリスの石とされた。ラピスラズリをはめ込んだツタンカーメン王の棺には死者の書の呪文とともにオシリスの像が描かれ、霊魂の流転再生の願いが込められた。

太陽と再生のシンボルである虫スカラベやオシリス神の鷹の頭を持つ息子ホルスの目がラピスラズリに彫られ、護符として用いられた

紀元前2500年頃
チグリ ス・ユーフラテス河のデルタ地帯に存在したシュメール人の古代都市国家ウル(現在はイラク)の遺跡のプアビ女王墓からはラピスラズリのネックレス、ラピス ラズリとカーネリアンのビーズが付いた黄金の頭飾りなどが多数発見された。

マルコ・ポーロ(西暦1254-1324年)
その著書「東方見聞録(原題/百万の書)」の中でラピスラズリを求め、その産出地であったヒンドゥークシュ山脈北部、バダフシャン地方のラピスラズリ鉱山を訪ねたことを次のように記している。
「世界中でもっとも高品質なラピスラズリがこの地方の山で採れる――そこへ行くには岩山の側面を切り出した細い小道を抜け、つり橋を渡らなければならなかった――銀の鉱脈のように縞状になってそれは現れた。」

ラピスラズリはエジプトやメソポタミアの遺跡を始め、古代オリエントの居住跡のあらゆる層でラピスラズリが出土している。
ただしラピスラズリは古代世界においてバダフシャン地方でしか産出されない。

アフガニスタン、イランを旅すると青が特別な色であることを感じさせられます。
これらの国々は土漠の延々と広がる乾燥地帯です。車窓から目にするのは土色の世界だけ。緑の存在すら感じさせません。家々も土から作られ、大地の色と同化しています。
その中にあってモスク(イスラム教寺院)は青と水色の唐草文様でびっしりと埋め尽くされ土色の世界の中に光り輝いています。

いにしえよりアフガニスタンは青を代表する石ラピスラズリの産地であり、イランは水色を代表する石ターコイズの産地でした。

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