鮑 (アワビ)の話:歴史-生態、生産量、そして中華料理、宝石、薬効

鮑は奇妙な貝である。見栄えは悪いがおいしいので、とても高級である。少しは「グルメ」の記事も書かないと、美味しいものを忘れてしまいそうなので、薀蓄小話を書くことにした。
鮑の殻には、呼吸孔が3から6個並んでいる。成長に伴い小さい孔が閉じられ大きい孔が形成され、いつも孔の数は一定であるらしい。孔の数が6から9個と多く小型のがトコブシであり、鮑とは別のもの。どちらも、殻の前端によく観ると渦巻き螺旋があり、巻貝であることが判る。
夜行性で海藻を食べて生きているので、見かけによらず運動能力がある。本では1分に2から3メートル歩くらしい。本当かどうか、穴から水を噴いて泳ぐこともできるらしい。鮑は帰巣本能があるらしくもといた場所に戻る習性があると言われている。暗いのに、また眼が無くてどうやって戻れるか不思議である。
エゾ鮑は良質の昆布を、ヤスリ状の歯舌で削って食べているからおいしいと言われている。刺身には雄貝、煮物蒸し物には雌貝が良いといわれている。判別は肝の色で濃緑のものが雌らしい。雌雄同体と思っていたら、鮑は雌雄が異なり、冬に受精・産卵するらしい。
メキシコには、孔雀鮑と茜鮑という、とても風情のある名前のあわびがいて、工芸品に使われるらしい。燃えるような赤い色の25cmぐらいの鮑がいるとのこと。殻の内側に青緑や紫色の雲のような模様があるので、孔雀鮑とよばれ、ペンダント、ネックレス、指輪、カフスボタンなどに使われている。
最高の細工用アワビに、カラパゴスの沖合いで取れるドールアワビというのがあるらしい。真紅とオレンジのミックスされたきれいな6cm位のアワビらしいが、入手難でコレクターの垂涎の的らしい。本当かどうか数万円のアワビらしい。身が高価かと思うと殻まで高級品があった。
鮑の料理
焼いて食べるのが一番おいしい。生の刺身も良いが、時には硬くて興ざめなこともある。
高級中華料理に使われるが、今は、デフレで、鮑のステーキ100g以上で5000円から1万円位で味わえる。
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柔らかく焼けたアワビを冷やして、肝+生醤油につけて、お酒と共に味わうのは最高である。何故、わざわざ干しアワビを戻した高級中華料理をありがたがるのか、不思議です。
磯の鮑の片思い:恋忘貝(こひわすれがい)
鮑は片貝なので、片思いのシンボルです。万葉の時代から、鮑を見て恋を思い出したそうですが、恋忘貝(こひわすれがい)とも言います。
「手に取るがからに忘ると 海人の言ひし恋忘貝(こひわすれがい) 言にしありけり」  巻7―1197
持っていると苦しい恋を忘れるという海人の言い伝えもあるようです。これは、あまり知れれていないが、片思いが遂げられるか忘れられるか一体どちらが本当でしょう。
鮑玉の謎
鮑から大きい真珠が採れるという。歌にみる鰒玉をはじめ万葉に詠まれている真珠の多くは鮑を母としたものだそうです。
東大寺三月堂の本尊、国宝の不空羂索(ふくうけんさく)観音は華麗な宝冠をつけていることで有名な仏さまですが、この宝冠に直径15mmの茄子型の真珠(鰒玉)があしらわれています。本当に鮑玉なのでしょうか。最近は、養殖の鮑も盛んですが、真珠が出てきた話は聞いたことがない。これほど大きい鮑玉が取れるならば、きっと磯でも評判になると思うが聞かない。もしかしたら、昔に、鮑玉の作り方があったのに、忘れられてしまったのではないだろうか。
木簡には「志摩国英虞郡名錐郷」(大王町波切)と「志摩国英虞郡名錐郷舟越里」(大王町船越)から「鮑玉」、「白玉」を納めた記録がある。阿古屋貝の真珠が白玉のことらしい。
伊勢の海人 朝な夕なに 潜くちふ 鮑の貝の 片思いにして
巻第十一 古今相聞往来歌類上物に寄せて思ひを陳ぶ
大王町の泊古墳は膳氏(かしわでし)の古墳とも言われ、この膳氏の由来は景行天皇が上総の国を巡回した折、蛤を見つけ、これを「磐鹿六鴈」という人物に調理させたところ、膾(なます)にし、天皇に差し出した。天皇がこれを気に入り、天皇の料理番に任じ、膳という姓を与えたとのこと。
平安時代には大王町の鮑や鰹など天皇がいたく気に入り天皇が自ら毎年納める事を定めたと記録にあります。 「トコブシ」を「ゴケンジョ」(ご献上)、「クロアワビ」を「オガイ」、「オンガイ」(御貝)と呼ぶ呼び方は大王町特有の呼び方
鮑の種類:巻貝
アワビって 巻貝です。貝に煙突状の孔(あな)が一列に4~5個並ぶ。この孔の下にはエラや肛門があって、水の取り入れや、糞の排泄、卵や精子の放出などを行います。殻の内側は光沢のある美しい真珠色です。
世界中に約100種、日本には10種が分布。一般にアワビと呼ばれているのは、クロアワビ、エゾアワビ、マダカアワビ、メカイアワビの4種 。アオはクロアワビ、アカはメガイアワビのこと。雌雄の違いではない。活き鮑のほとんどは、漁獲量の多いクロアワビとエゾアワビの2種です。
アワビをそのまま小型にしたようなトコブシも分類上は同じ「ミミガイ科」の仲間で、日本の10種の中に入る
暖海性のクロアワビは太平洋側では房総以南、日本海側では秋田県以南に主 に分布。殻長は15~20cmになります。
エゾアワビは寒海性で名前の通り、北海道、東北、常磐に分布小型で、10cmほど
写真の左がアオ(色が青黒い)右がアカ(白っぽい)
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鮑はミミ貝科の巻貝の一種、雄と雌を肝の色で見分ける。雄の肝は茶色で、雌の肝は緑、味は同じようなもの。妊婦が雌の肝を食べると「目の綺麗な子供が生まれる」と云われている。肝の部分が疲労回復などの効用があるらしい。
成長が遅いから貴重
アワビの殻には虹色の年輪のようなものがあります。ここでアワビの年齢がだいたいわかります。7.5センチのエゾアワビで、大体10歳です。アワビは成長が遅いです。何年もかけて少しずつ大きくなります。
最大級の鮑:1kg以上
ホームページ上で見たところ大体大きくて600g。両手ですっぽり入る位の大きさのようです。伊勢神宮の熨斗(のし)鮑も、えりすぐってこのぐらいの大きさのものを使うようです。鳥羽の国崎の組合長さんのお話では、「昔は洗面器ぐらいのアワビがいたが、最近は少ない。数と大きさをそろえるのが大変」らしい。1kgを超えると何十年のの歳と思える。
鮑の天敵:タコ
鮑は外洋に面した岩礁にすみアラメ、ワカメ、コンブなどを餌にしています。昼間は岩にへばりつき夜に行動する夜行性。鮑にとって天敵はタコです。タコの攻撃はきわめてシンプルで、岩にくっついている鮑にぐにゃりと絡みつき、足で穴をふさいでしまう。息苦しくなった鮑がたまらずフラフラと岩を離れるとタコツボならぬタコの思うツボ、おもむろに食事にとりかかるという寸法。
房総は砂岩であり、海藻が根付いてよく育つので、鮑も豊富。岩の半島の伊豆と比べれば、大きくておいしい鮑の産地である。そしてタコも多い。
熨斗(のし)鮑伝説
2000年もの昔倭姫の命(やまとひめのみこと)が国崎を訪れた祭に『お弁』と言う海女から鮑を差し出される。そのあまりの美味しさに感動。以来、伊勢神宮に献上するように命じられたのが始まりとされます。この熨斗鮑を造る作業が、伊勢神宮調進所で行われます。毎年6月から8月にかけて作業が行われ、一回に使われる鮑は200㌔。一つ一つ皮をむくように皮をむくように薄くきっていき、それを干していきます。ヒノキで造られた干し場で、布のようになった鮑が下がる風景を見ることもできます
倭姫命は、「日本書紀」の垂仁朝(すいじんちょう)に語られる伊勢神宮遷宮譚の主人公。垂仁天皇の娘で日本武尊(やまとたけるのみこと)のオバにあたる。倭姫命御陵は伊勢市倭町にある。 およそ二千年前、天照大神様の伊勢への御鎮座を倭姫命が御杖になられた。
鳥羽の国崎は神宮鎮座とともに、二千年変わらず、アワビを納めてきた。五月中旬から海女のアワビ漁が解禁になると、古老たちが調製所に集まり、熨斗(のし)鮑づくりにはいる。漁師の一線を退いた男たちが生アワビをリンゴの皮をむく要領でひも状にのしていく。七百グラムのアワビで、のした長さは三メートル半にもなる。
戦国武士の出陣式の祝いの膳
出陣式において、完全武装した大将の前に武装した家臣が三宝に縁起物の肴を載せて運んで来、左手に素焼きの盃、その右に昆布、向こう側に勝栗、左に打ち鮑を置き、「一に打ち鮑、二に勝栗、三に昆布」の順に食べる。これは「敵に打ち、勝ち、よろこぶ(昆布)」と気合を入れて口にする。打ち鮑とは鮑の肉を薄く切って干して、叩いて伸ばしたもの、つまり縁起物に使用される「熨斗鮑」のこと。勝栗は栗の皮をむいて干して作ったもの。昆布も乾燥させたものである。盃は3つ用意されており、まず一の盃を飲んで、順に肴を食べ、続いて二の盃、三の盃とも同じようにしていく。この行為を「一献、二献、三献」といい、目出度いときに行なうものらしい。(参考:http://www.01.246.ne.jp/~reki127/index.rekitan-28.html)
最高級の干し鮑:キッピンパオ(吉浜鮑)
中華料理の最高級のカンポウを吉浜鮑と云う。これは、「吉浜式製法」それによって生み出される三陸の吉浜で作られた乾鮑のことである。
江戸、明治時代には高級食材として中国などに輸出されていましたが、昭和30年代から生産が途絶えました。平成10年に「あわびの里構想」の一環として、吉浜漁協が中心となり、大正時代の製法伝授書をもとに復活しました。製造行程はあわびに塩漬けや湯通し等の処理を施し、その後1ヶ月近く天日干しを行います。天日干ししたあわびの身の重さは、生の重さの2割くらいまで減少します。今年は120kgの生産を予定しており、東京の業者を通じて香港に輸出されます。気になる値段は1キロあたり10万円位らしい。キッピン鮑は、江戸時代には長崎貿易の主力干物商品として「いりこ」や「こんぶ」「ふかひれ」などと共に「長崎俵物」として 中国に輸出された。
中華料理:乾鮑を使う
中華料理ではアワビを干したものを乾鮑(ガンパオ)とよび、大きいものは大変高価でかつ珍重される。日本でも古来、内陸部で食べる鮑は羅鮑(身取り鮑)で殻から取った物を干し乾燥していた。
数種のあわびが中国沿岸に広く分布している。中国料理の高級素材の一つ。古くから美味な海産物として珍重されており、「漢書」にはあわびを肴に酒を飲んだこと、「後漢書」には山東からあわびを光武帝に献上していたことなどがみられる。後の古書にもあわびに関する記述は大変多い。古くは鰒・鰒魚が一般的に用いられており、鮑魚はあわびのことではなく、「孔子家語」などの「鮑魚の肆」(乾魚の店)や『釈名』の「鮑魚、鮑は腐なり」に見られるように、塩漬けした臭いの強い魚であった
鮑の栄養、効用
コラーゲン・・・・・・・老化、毛髪、目疲れ、肌荒れ、美肌
セレン・セレニウム・・・ガン、抗酸化作用、糖尿病、動脈硬化、免疫力強化、老化防止
銅・・・・・・・・・・・貧血、免疫力改善、毛髪
乾鮑(ガンパオ)の作り方
鮑を殻からはずした「あわび」を2晩塩漬けにします。その後 湯通しをしてから燻製にし、40日程度 天日干し。干し終わる頃には アメ色の「乾鮑」が出来あがります。
活鮑1粒200gが 乾鮑になる場合 約8~10%くらいの16~20gの乾鮑になります。 中華料理では 乾鮑については 何頭で注文されますが 1斤(600g)に 乾鮑が何粒あるかで頭級が表わされます。 20gだと30頭級となり、頭級数が少ないとそれは 大きな鮑、そして高価な乾鮑となる訳です。
オレンジ色に輝く宝石のような吉浜鮑は、中国では一個数万円もするという。
中国での旅行者情報のブログでは、
「「4頭日本大網鮑魚」などは1キロ8300ドル(約75万円)もするんです。!!!」
と書いてあった。これなど、怪しい。干し鮑が、一斤(600g)に4頭ということは、一個150gであり、干す前の重さは1.5kgの鮑ということになる。日本で1kg以上の鮑はまず難しいので外国産の鮑の可能性が高い。生乾きの場合もあるので皆さんだまされないように・・・・・・。
日本で、お刺身で食べるのが間違いないし、安くておいしいですね。浜値が、1kgあたり6から7千円であることを忘れないようにしましょう。
鮑の生産量
国内生産量は、おおよそ2000トン、1kgの浜値が6000円以上だから、相当な生産高である。これに対して輸入が937t(豪、南ア)である。最近、中国の好景気で高級品も値上がり気味とか。
あわびの生産・流通・研究などデーターベースがありました。
http://ww4.tiki.ne.jp/~ikawahara/awabimain.htm
あわびの岩手県生産量は、昭和59年の152トンを最低に近年は増加傾向にあります。
あわびの養殖技術で漁獲高を維持
明治25年に干しアワビが干しホタテを抜いて以来、日本は1978年(昭和53年)までは世界のアワビの生産量の第一位だった。
第二位はメキシコで第三位はオ-ストラリアだった。この第二位のメキシコ産は20年間でなんと1/6にまで減少してしまうし、韓国も同様であります。そこそこ取れていたカナダやマレ-シアはなんと0となっています。日本はなんとか1/3を保っています。
乱獲が原因なのは言うまでもありませんが、なにより昆布の減少と高齢化の影響が大きいのでしょう。
アワビの養殖を勧めたのはあの内村鑑三。明治15年に提案。
陸のあわび:「白霊茸(はくれいたけ)」バイリング
中国の新疆、天山山脈に自生するまぼろしの茸。もちろん秋に入荷。
高級中華料理に使われる
栽培方法が開発され日本でも、生産されている。
新疆ウイグル自治区などに自生する阿魏(セリ科の植物、薬草としても使われる)を菌床として育つ珍しい茸。天山白霊芝(てんざんはくれいし)や西天白霊芝(せいてんはくれいし)とも呼ばれる。
「阿魏茸(あぎたけ)」「白霊菇(ばいりんぐ)」「白霊芝(はくれいし)」など様々な呼び方がある。
色は純白で、肉質が厚く食感があわびに似ていることから「陸のあわび」と呼ばれる。
どんな食材にも合わせやすいため最近ではイタリアンや日本食にも使われています。
白霊茸には「Bグルカン」が多量に含まれ、自然治癒力を高め体質改善に役立つ
俵物:鮑と海鼠とフカヒレを長崎より輸出
江戸時代の輸出3品:干しアワビ(干鮑)と煎りナマコ(干海鼠)とフカヒレ(鱶鰭)
長崎から中国圏に輸出するとき俵に内装した形態から「俵物」と呼ばれた
中華料理の食材
アワビとナマコは日本産であり、フカ鰭も大半が宮城県など日本産
ツバメの巣はタイが産地だからです。
海草特にコンブは中国料理には使われない
漢方薬:解熱剤
鮑玉は宝飾だけではなく、漢方薬として用いられていたと見られる。特に貝類の真珠層には解熱作用があり、近年まで小粒の物は漢方薬として用いられていた。

鮑玉のネックレス

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ルアーマンのお宝
鮑の真珠層を貼り付けてルアーを作る。とてもよく釣れる高級なルアーになる。
日本で、最も希少な貝
オキナエビス貝という珍しい貝の話。昔、江ノ島のみやげ物店で売られていた名も無い貝をドイツのヒンゲルドルクが買い求めて調査し、1877年に新種とわかったらしい。この貝は、その後に、リュウグウオキナエビスも、オランダのスヘップマンによって発見され、日本を代表する貝となった。300mぐらい深い土佐湾沖でも採取されたこともあるらしい。その後幻の貝といわれていたが、1968年に、台湾沖の海で底引き網にかかってあがったとのこと。
当時世界に2個しかない、美しいリュウグウオキナエビスを鳥羽水族館は1万ドルで入手したという。当時は固定レート360円でしたから、360万円の史上最高価格を記録したという。ところが、台湾でも取れていたらしく、ニュースを聞いた漁師が採取に走り、たくさん取れてたちまち暴落との落ちとなったそうな。
切手にもなっている貝なので眺めるだけしましょう。
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明石の大真珠の話
男狭磯(おさし)阿波国長邑の海人。19代允恭天皇紀、天皇が淡路島で狩をしたが、島の神(伊弉諾尊)の祟りで全く獲物が獲れなかった。明石の海の底の大真珠を供えればよいとの託宣があったので、方々の海人を集めたが獲れない。そこで男狭磯が呼ばれ、海底から大鮑を抱き取って浮上するが、海上で息絶えてしまった。その時、男狭磯が腰に巻いていた綱は、六十尋(一尋は大人が両手を広げた長さ)もあったという。大鮑から出て来た桃の実程の大きさの真珠を供えると、猟は大成功しが、天皇は男狭磯の死を悲しんで、墓を作って厚く葬った。
関連:俵物について
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